2025/09/19
慢性疲労さんのリラックス:心拍変動で見る鍼の効果
「鍼」と「お灸」が慢性疲労症候群に効く、心拍変動を通じた自律神経への作用を国際研究で確認
中国の研究チームが、鍼とお灸の慢性疲労症候群への効果を科学的に検証。
自律神経を整える、即効性と持続性のある作用が確認されました。
「足三里」と「関元」の刺激により疲労感が和らげられる可能性が示された。
だるさや疲れが続いて日常生活に支障を来す「慢性疲労症候群(CFS)」に対して、鍼(はり)や灸が自律神経のバランスを整え、疲労の軽減につながる可能性があることが分かりました。
2025 年 4 月、中国の研究チームにより効果が科学的に検証され、発表されました。研究では、ツボへの鍼やお灸の刺激が、心拍のわずかな変化(心拍変動=HRV)にどう影響するかを調べることで、自律神経に与える即効性と持続性を保った効果を評価しました。
自律神経を整える効果に期待
鍼には、自律神経を即時的に整える作用があり、一方でお灸はその効果をより長く持続させるとされます。こうした従来の方法を補う伝統療法が、慢性疲労の新たなケア手段として期待されています。
今回の研究では、慢性疲労症候群の患者 175 人と健康な人 35 人が参加しました。被験者は、患者を含む 5 つのグループ(偽鍼 1 グループ+鍼 3 グループ+お灸 1 グループ)と、健康な人を含む 1 グループに分かれ、10 回の施術を受けました。使用されたツボは、足の「足三里(あしさんり)」と下腹部の「関元(かんげん)」。鍼による刺激、お灸による温熱刺激による効果が比較されました。鍼は片方のツボを刺激するグループ、両方のツボを刺激するグループ、偽物の鍼を使用したプラセボ群が設けられました。もう一つの治療グループでは、2 つのツボに対するお灸による温熱刺激が行われました。
効果の測定には、心拍のゆらぎを分析する「心拍変動」という指標が使われました。これは自律神経のバランスを反映するもので、施術の前後に加え、治療の途中でも複数回測定されました。また、疲労の重さや生活の質についてもアンケートで評価が行われました。
このようにして、鍼とお灸がそれぞれどのように自律神経に働きかけるのか、また即時的・持続的な効果の違いが科学的に検証されました。
鍼とお灸の効果、出方に違い
その結果、足三里と関元への鍼刺激は副交感神経と交感神経の双方を活性化、ツボを同時に鍼刺激することで、交感、副交感神経のバランスが整い、最も高い治療効果が得られました。鍼は施術直後に効果が出やすく、即効性がありました。また、心拍変動などの指標に基づく判断より、本物の鍼は偽物の鍼と比較して有意な改善が確認されました。
一方、お灸は身体をじんわり温めながら、ゆっくりと持続的に効く特性がありました。特に、お灸による温熱刺激は治療の後半にかけて副交感神経を穏やかに活性化させ、心身のリラックスを長く保つ効果が見られました。これにより、心拍の安定性が認められ、疲労の軽減につながる可能性が示されました。
今回の研究から、鍼とお灸がそれぞれ異なる自律神経に働きかけることで、慢性疲労症候群の症状を、即効的にも、時間をかけた形でも和らげる可能性があることが示されました。
このことから、患者の状態やその時の疲れの種類に応じて、鍼とお灸を使い分けることが、より効果的なケアにつながる可能性があります。今後、慢性疲労症候群に対処するための選択肢として、こうしたアプローチが広がっていく可能性があります。
参考文献
LiT,LitscherG,ZhouY,etal.Effectsofacupunctureandmoxibustiononheartratevariabilityinchro
nicfatiguesyndromepatients:Regulatingtheautonomicnervoussysteminaclinicalrandomizedco
ntrolledtrial.ComplementTherMed.2025;92:103184.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40315935/
星 良孝(ほし よしたか)
ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「