2025/10/24
脳梗塞後の血管再生を促す頭皮鍼、その作用に新たな経路が関与
頭皮に鍼を打つことで、脳梗塞後の血管再生が促進される可能性があることが示されました。
そのしくみには、血管や神経の再生に関わる特定のたんぱく質の働きが深く関係していると考えられています。
神経機能の回復や脳組織の損傷軽減にも、明確な改善効果が確認されています。

脳梗塞からの回復を助ける方法として、頭に鍼を打つ刺激が血管再生を通じて血流改善が期待され、リハビリの効果を高める可能性があることが分かってきました。
2025 年 6 月に中国の蘇州大学などの研究グループが発表した研究です。
血流改善を後押し

脳梗塞の後遺症は、損傷を受けた脳の組織だけでなく、その周囲で起こる血流の低下による二次的な障害も大きな要因とされています。
こうした背景から、血管を新しく作る「血管新生」に注目が集まっています。
これまでも、鍼灸が神経の回復や血流の改善に役立つことは数多く報告されてきましたが、その背後にある分子レベルの仕組みについては、十分に解明されていませんでした。
研究では、脳梗塞の状態を再現したラットの実験により、頭皮に鍼を打つことで脳にどのような影響があるのかを詳しく調べました。
その結果、鍼治療を受けたグループでは、1 日後と 7 日後の時点で神経機能のスコアが明らかに改善しており、脳の働きが回復に向かっていることが分かりました。
また、脳梗塞の広がりを測定したところ、鍼を受けたグループではダメージの範囲が小さくとどめられていたことが確認されました。
さらに、ダメージを受けた周辺の脳組織を調べると、神経細胞が保たれ、組織の構造も崩れていない様子が見られました。
血管を作る細胞の形や、細胞同士のつながりも改善しており、血流の回復を支える変化が起きていると考えられます。
血管作りを進めるタンパク質が増える

注目されたのは、鍼の刺激によって新しい血管の元になるたんぱく質(CD34 など)の量が増えていた点です。これは、実際に血管の再生が進んでいることを示すものです。
その上、血管作りを進める指令役となる物質(MATN2 や WNT3a、β-カテニン)も増えていました。これらは「この場所にもっと血管を作ろう」と細胞に指示を出す働きがあり、鍼刺激が血管作りのスイッチを入れる可能性があることが示されました。
脳の機能回復に加え、細胞レベルでも血管の再生が裏づけられた点は、この研究における大きな成果の一つといえます。
今回の研究は、まだ動物実験による基礎的な段階のものですが、脳の回復を後押しする方法として、頭皮鍼が新たな可能性を持っていることを示しています。
今すぐにそのまま人への治療に応用できるわけではありませんが、体への負担が少なく、無理のないかたちで取り入れられるケアの選択肢として、今後の研究に期待が高まります。
参考文献
Zhang Q, et al. The mechanism of promoting angiogenesis after cerebral infarction by scalp
acupuncture based on MATN2/WNT3a/β-catenin. J Mol Histol. 2025 Jun 5;56(3):186.
doi: 10.1007/s10735-025-10461-z.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40471365/
